「高タンパク」という言葉は、フードのパッケージでもっともよく見る訴求のひとつだ。だが、犬が実際に必要とするタンパク質はどれくらいなのか。公的な栄養基準はAAFCOとNRCの二つがあり、しかも使っている単位が違う。この単位の違いを揃えないまま数字を比べると、話が噛み合わなくなる。ここを整理する。

先に結論(TL;DR)

AAFCOの犬用栄養基準は成犬維持期で粗タンパク質18.0%以上、成長期・繁殖期で22.5%以上(乾物換算)。NRC 2006の推奨量は成犬25g/離乳後の子犬56.3g(いずれも代謝エネルギー1000kcalあたり)。単位を揃えると、成長期では両者がほぼ同じ水準に収束する一方、成犬ではAAFCOの下限のほうがNRCの推奨量より高いことが見えてくる。「何%必要か」は、エネルギー密度を決めないと答えが出ない問いである。

二つの基準は、何が違うのか

まず前提を揃える。犬用フードの栄養基準としてよく参照されるのは次の二つだ。

AAFCO 栄養基準 NRC(2006)
性格 製品が満たすべき実務上の最低基準 科学的に整理された要求量・推奨量
単位 %(乾物換算) g/代謝エネルギー1000kcal
使われ方 「総合栄養食」表示の根拠 研究・処方設計の参照値
安全率 加工損失等を見込んだ余裕を含む 要求量と推奨量を区別して提示

ここが最初の分かれ道になる。AAFCOは「乾物中に何%」で書き、NRCは「エネルギー1000kcalあたり何g」で書く。前者は重量あたり、後者はカロリーあたりだ。犬は重量ではなくエネルギーを基準に食べる量を決めるため、栄養学的にはNRCの表記のほうが実態に近い。しかしラベルに書かれているのは%である。だから両者を行き来する必要が出てくる。

数値そのものを並べる

まずAAFCO側。犬用の栄養基準は乾物換算で次のように定められている。

区分 粗タンパク質(最低) 粗脂肪(最低)
成長期・繁殖期 22.5% 8.5%
成犬・維持期 18.0% 5.5%

次にNRC 2006の推奨量(recommended allowance)。こちらは代謝エネルギー1000kcalあたりのグラム数で示される。

区分 タンパク質の推奨量
離乳後の子犬(犬) 56.3 g/1000 kcal ME
成犬 25 g/1000 kcal ME
(参考)子猫 56.3 g/1000 kcal ME
(参考)成猫 50 g/1000 kcal ME

成猫の50gという値が、成犬の25gのちょうど倍になっている点は目を引く。猫が犬より多くのタンパク質を要求するのは、代謝の仕組みそのものが違うためだ(→猫は犬と違う ── 絶対的肉食動物の栄養学)。

単位を揃えると、何が見えるか

ここからが本題だ。%とg/1000kcalを行き来するには、そのフードのエネルギー密度が要る。乾物1kgあたり何kcalか、という値だ。

換算のしかた

仮に、乾物1kgあたり4000kcal(ME)のフードを考える。このとき1000kcal分の乾物は250gだ。したがって「乾物中18%」は、1000kcalあたり 250g × 0.18 = 45g に相当する。逆に「1000kcalあたり25g」は、25 ÷ 250 = 10%(乾物) に相当する。エネルギー密度が変われば、この対応関係も変わる。

この換算を当てはめると、二つの基準の関係が見える。

区分 AAFCO最低(%DM) 同左を換算
(4000kcal/kg DM 前提)
NRC推奨量
成長期 22.5% 約56 g/1000kcal 56.3 g/1000kcal
成犬・維持期 18.0% 約45 g/1000kcal 25 g/1000kcal
成長期では、AAFCOの最低基準とNRCの推奨量がほぼ同じ水準に重なる。一方、成犬ではAAFCOの下限のほうがNRCの推奨量よりかなり高い。「AAFCO最低=ぎりぎり」という理解は、成犬については必ずしも当たらない。

なぜ成犬でこれだけ差がつくのか。AAFCOの数値は製品規格であり、原材料のタンパク質の質のばらつきや加工による損失、幅のある実際の摂取量を見込んだ余裕を含む。対してNRCの推奨量は、良質なタンパク質が消化・利用されることを前提にした栄養学的な値だ。性格が違う数字を、同じ「必要量」として並べてはいけない。

「%」だけを見てはいけない理由

ここまでの整理から、実用的な結論がひとつ出る。パッケージの「タンパク質○%以上」は、エネルギー密度とセットでなければ意味を確定できない。

同じ「粗タンパク質28%」でも、高脂肪でエネルギー密度の高いフードと、低脂肪でエネルギー密度の低いフードでは、犬が1日に食べる量が変わる。食べる量が変われば、実際に摂取するタンパク質のグラム数も変わる。エネルギー密度の高いフードは給与量が少なくて済むぶん、同じ%でも摂取タンパク量は減る方向に働く。

さらに、保証成分値の「粗タンパク質」は窒素量から計算した推定値であり、アミノ酸組成や消化率までは表していない。この点は別記事で詳しく扱っている(→「タンパク質37%」を読み解く)。

ラベルの数字が答えないこと 実際に効いてくる要素
そのタンパク質は何由来か アミノ酸組成(必須アミノ酸が揃っているか)
どれだけ消化・吸収されるか 原材料と加工条件による消化率の差
1日に何g食べることになるか フードのエネルギー密度と給与量
「以上」の実際値はいくつか 保証成分値は下限表示であり実測値ではない

ライフステージごとの読み方

以上を踏まえて、ステージ別に押さえるべき点を整理する。

成長期(子犬)

AAFCO 22.5%以上・NRC 56.3g/1000kcal。二つの基準がほぼ一致する数少ない領域で、要求量が高いことに議論の余地は小さい。成長期は同時にカルシウムとリンの上限も重要になるため、「総合栄養食(成長期用)」の表示があるフードを選ぶのが確実な方法になる(→子犬・子猫の食事)。

成犬・維持期

AAFCO 18.0%以上・NRC 25g/1000kcal。市販のフードの多くはこの下限を上回っており、「基準を満たすか」より「その犬の活動量とエネルギー密度に対して給与量が適切か」が実務上の論点になる。

高齢期

AAFCOには「高齢期(シニア)」という独立した区分がなく、シニア向け製品も基準上は成犬・維持期に分類される。「シニア用」という表示に、公的な栄養基準の裏づけがあるわけではないという点は押さえておきたい。加齢に伴うタンパク質の扱いについては、11月のレポートで改めて扱う。

結論

タンパク質の必要量は、「何%」という一つの数字では決まらない。AAFCOは乾物中の%で製品の下限を定め、NRCはエネルギーあたりのグラム数で栄養学的な推奨量を示す。単位を揃えれば、成長期では両者が重なり、成犬ではAAFCOの下限のほうが高い、という関係が見える。ラベルの%を読むときは、エネルギー密度と給与量まで含めて、1日に何gを摂ることになるのかで考える。それが数字を実態に近づける唯一の手順だ。

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よくある質問(FAQ)

Q. 成犬に必要なタンパク質は何%ですか?

AAFCOの犬用栄養基準では成犬・維持期で粗タンパク質18.0%以上(乾物換算)が最低量とされています。ただし%は乾物重量あたりの値なので、フードのエネルギー密度によって「1日に何g摂ることになるか」は変わります。NRC 2006は成犬の推奨量を代謝エネルギー1000kcalあたり25gとしており、単位が異なる点に注意が必要です。

Q. 子犬にはどれくらい必要ですか?

AAFCOでは成長期・繁殖期で粗タンパク質22.5%以上(乾物換算)、NRC 2006では離乳後の子犬で56.3g/1000kcal MEが推奨量です。乾物1kgあたり4000kcalのフードで換算すると22.5%は約56g/1000kcalとなり、二つの基準はほぼ同じ水準に重なります。成長期はカルシウム・リンの上限も重要なため、成長期対応の総合栄養食を選ぶのが確実です。

Q. AAFCOとNRCの数字が違うのはなぜですか?

性格が違うためです。AAFCOの値は製品が満たすべき実務上の最低基準で、原材料の質のばらつきや加工損失を見込んだ余裕を含みます。NRCの推奨量は、良質なタンパク質が消化・利用されることを前提にした栄養学的な値です。単位も%(乾物)とg/1000kcalで異なるため、比較にはエネルギー密度を用いた換算が必要になります。

Q. 「シニア用」フードには専用の基準がありますか?

AAFCOの犬用栄養基準に「高齢期」という独立した区分はなく、シニア向け製品も基準上は成犬・維持期に分類されます。「シニア用」という表示自体に公的な栄養基準の裏づけがあるわけではないため、内容は保証成分値と原材料で個別に確認する必要があります。

参考文献

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