パッケージの「原産国」を、原材料の産地だと思って読んでいる人は少なくない。だが制度上、原産国が指しているのは別のものだ。EU・米国・日本の3つの枠組みを並べると、表示のルールと、そこから読み取れることの限界がはっきりする。
「原産国」=原材料の産地ではなく、実質的な変更をもたらす最終加工が完了した国。この「実質的変更(substantial transformation)」という考え方は、EU・米国・日本のいずれにも共通する。日本のペットフード安全法では、原産国名を含む5項目の表示が義務づけられている一方、原材料名を並べる順序については法令上の明示的な義務がない——これはEUや米国との大きな差分だ。表示から分かるのは「どこで最後に作られたか」までで、「原材料がどこから来たか」は分からない。
3つの制度を並べる
| 日本 | EU | 米国 | |
|---|---|---|---|
| 主な根拠 | ペットフード安全法 (愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律) |
規則 (EC) No 767/2009 + FEDIAF 表示規範 |
各州が採用するAAFCOモデル規則 + FDA(連邦) |
| 所管 | 環境省・農林水産省の共管 (2009年6月1日施行) |
欧州委員会/加盟国 | FDA・州の飼料管理当局 |
| 原材料の表示順 | 法令上の明示的な義務なし (実務上は多い順が一般的) |
重量の降順が原則 カテゴリー表示も可 |
重量の降順が必須 |
| 原産国表示 | 義務 | 規則に基づく製造者・責任者の表示が中心 | 実質的変更で判断。 “Made in USA” はFTCが別途規律 |
| %の併記 | 義務ではない | 強調表示をした原料には併記が必要 | 製品名のルール(95%/25%/3%)で規律 |
日本 ── 義務は5項目
ペットフード安全法に基づき、犬用・猫用のペットフードには次の5項目の表示が義務づけられている。
① 名称(犬用・猫用の別が分かること)
② 賞味期限(年月日または年月を算用数字で)
③ 原材料名(添加物を含めて記載)
④ 原産国名
⑤ 事業者の氏名または名称および住所
この法律は、2007年に米国で発生したペットフードによる健康被害を契機に整備されたもので、表示だけでなく成分規格(有害物質・添加物の上限)と製造方法の基準を定めている点が重要だ。基準に適合しないペットフードの製造・輸入・販売は禁止され、有害な製品には廃棄・回収の命令が可能になっている。「表示の法律」ではなく「安全の法律」だという理解が実態に近い。
EUや米国では原材料を重量の降順で並べることが規定されているが、日本の法令は原材料名の記載順序を明示的に義務づけていない。実務上は配合量の多い順に記載するのが一般的だが、規定として存在するわけではない。日本語表示だけを見て「1番目がいちばん多い」と当然に読めるとは限らない、ということになる(→原材料表示の読み方)。
「原産国」とは何を指すのか
ここが本題だ。日本の制度では、原産国は「実質的な変更をもたらす最終工程が完了した国」と定義される。小分けや詰め替えのように、製品に実質的な変更をもたらさない行為は最終工程に当たらない。したがって、輸入した完成品を国内で袋詰めしただけでは原産国は変わらない。
米国でも同じ考え方が採られている。第二国で加えられた加工が実質的変更(名称・性質・用途の異なる新しい物品が生まれること)に当たる場合、その第二国が原産国になる。
| 原産国表示が答えること | 答えないこと |
|---|---|
| 最終的な加工が行われた国 | 原材料がどこで生産されたか |
| どの国の製造基準の下で作られたか(推測の手がかり) | 個々の原料の調達先 |
| — | 工場の設備・管理水準 |
この点は、米国の「Made in USA」表示をめぐる議論とも重なる。FTC(連邦取引委員会)は「Made in USA」に「すべて、または実質的にすべて(all or virtually all)」が米国由来であることを求めるが、実際の運用では輸入原料の扱いに幅がある。国名の表示は、思われているほど多くを保証しない。
EU ── 表示の枠組みと「カテゴリー表示」
EUでは、飼料の上市と使用に関する規則 (EC) No 767/2009 が土台になり、業界団体FEDIAFの表示規範が実務を補っている。特徴は2つ。
第一に、原材料は重量の降順で列記するのが原則で、%の併記も可能とされている。第二に、個別の原料名の代わりに「肉および動物由来製品」のようなカテゴリー名でまとめる書き方が認められている。カテゴリー表示を選んだ製品では、個々の原料が何かは表示から分からない。ただし特定の原料を強調表示する場合は、その原料の%を併記する必要がある。
なお、栄養基準についてはEUではFEDIAFのガイドラインが、米国ではAAFCOの栄養基準が参照される。両者はいずれもNRCの科学的知見を土台にしているが、数値は完全には一致しない(→「総合栄養食」とは何か)。
米国 ── 連邦と州の二層構造
米国の枠組みは分かりにくい。FDAが連邦レベルで食品としての安全性を規律する一方、ペットフードの表示や成分規格は、各州がAAFCOのモデル規則を採用する形で運用される。AAFCO自体は規制当局ではなく、州の当局者による団体である。
したがって「AAFCO認証」という表現は正確ではない。AAFCOは製品を認証しない。存在するのは「AAFCOの栄養基準を満たす」という製造者側の表示であり、その根拠は計算による適合か、給与試験による確認かのいずれかになる。
表示から確認できることの整理
| 確認するところ | 読み取れること |
|---|---|
| 原産国名 | 最終加工が行われた国。原料の産地ではない |
| 事業者名と住所 | 製品に責任を負う主体。問い合わせ先 |
| 賞味期限 | 製造からの経過時間の目安(→賞味期限と栄養価の変化) |
| 原材料名 | 使用原料の一覧。日本では順序が法定でない点に注意 |
| 栄養基準の適合表示 | どの基準(AAFCO/FEDIAF等)のどのライフステージに適合するとしているか |
ここに書かれていないことを知りたい場合——たとえば主要原料の調達先や、工場の管理体制——は、表示ではなくメーカーへの問い合わせになる。答えられる範囲を持っているかどうか自体が、ひとつの判断材料になる。
結論
ペットフードの表示制度は、EU・米国・日本で枠組みが異なる。共通しているのは「原産国=実質的変更をもたらす最終加工が完了した国」という定義であり、そこには原材料の産地は含まれない。日本のペットフード安全法は原産国名を含む5項目の表示を義務づける一方、原材料の記載順序は法定していない。制度が何を保証し、何を保証していないのかを知ることは、表示を疑うためではなく、正しく使うために必要な前提だ。表示は出発点であって、終着点ではない。
FINEPET’S では、法定の表示項目に加えて、原材料の構成と保証成分値を製品ページで公開しています。表示の外側にある質問にもお答えします。
よくある質問(FAQ)
いいえ。原産国は、実質的な変更をもたらす最終加工が完了した国を指します。小分けや詰め替えのように製品に実質的な変更をもたらさない行為は最終工程に当たらないため、輸入した完成品を国内で袋詰めしても原産国は変わりません。原材料がどこで生産されたかは、原産国表示からは分かりません。
ペットフード安全法により、①名称(犬用・猫用の別が分かること)②賞味期限 ③原材料名(添加物を含む)④原産国名 ⑤事業者の氏名または名称および住所——の5項目が義務づけられています。同法は環境省と農林水産省の共管で、2009年6月1日に施行されました。表示だけでなく成分規格と製造方法の基準も定めています。
実務上は配合量の多い順に記載するのが一般的ですが、日本の法令は記載順序を明示的に義務づけていません。EUや米国では重量の降順が規定されているため、この点は制度上の差分になります。日本語表示だけを見て「1番目がいちばん多い」と当然に読めるとは限りません。
正確な表現ではありません。AAFCOは米国の州飼料管理当局者による団体で、規制当局でも認証機関でもなく、製品を認証しません。存在するのは「AAFCOの栄養基準を満たす」という製造者側の表示であり、その根拠は計算による適合か給与試験による確認のいずれかです。
参考文献
- 農林水産省「ペットフードの安全関係(ペットフード安全法)」(義務表示項目、成分規格・製造方法の基準). https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/petfood/
- Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries. “Overview of Pet Food Safety Act”. https://www.maff.go.jp/e/policies/ap_health/petfood/attach/pdf/index-21.pdf
- Regulation (EC) No 767/2009 of the European Parliament and of the Council on the placing on the market and use of feed. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2009/767/oj/eng
- FEDIAF. Code of Good Labelling Practice for Pet Food, October 2019. https://europeanpetfood.org/wp-content/uploads/2022/02/FEDIAF_labeling_code_2019_onlineOctober2019.pdf
- Association of American Feed Control Officials (AAFCO). “Pet Food Labeling Guide” / “Reading Labels”. https://www.aafco.org/resources/guides-and-manuals/pet-food-labeling-guide/
- U.S. Food and Drug Administration. “FDA’s Regulation of Pet Food”. https://www.fda.gov/animal-veterinary/animal-health-literacy/fdas-regulation-pet-food